大会長・プレナリー・招待講演

CL 大会長講演

10月29日(火)10:10〜10:40 タワーホール船堀5F 大ホール

CL

⽔⼝ 賢司
(大阪大学 蛋白質研究所)

「多面的モデリングの基礎としてのデータ統合ーAI創薬に向けて」

人工知能(AI)・機械学習の生命科学分野、特に創薬研究への応用においては、学習用のデータの質と量の確保が、予測モデル構築を成功させるために最も重要な要素と認識されている。 創薬プロセス全般に関わるAI駆動型システムの開発と具体的なプロジェクトへの応用は精力的に行われている一方で、データの質と量の確保の課題については、単一のソリューションを与えることは難しい。本講演では、我々のグループの1)新規のデータ統合技術の開発とデータキュレーションの確立と、2)実験による独自のデータ収集、に基づく最近の試みをケーススタディとして、改めてこの課題についての議論を深めたい。具体的には、文献データマイニングとインハウス実験データを用いたナノ粒子の安全性予測(Martin et al., ACS Nano, 2023)、新しい測定手法でデータを取得した人工核酸の安定性予測(Kuroda et al., Mol. Ther. Nucleic Acids, 2024)、公共データに専門知識を活かしたキュレーションを施すことで機械学習に利用可能なデータセットを作成し、特定の代謝酵素が医薬品の代謝全体に占める寄与率(fm値)を予測した事例(Watanabe et al., Mol. Pharmaceutics, 2022)などを取り上げる。

PL プレナリー講演 

デジタル革命と創薬:進化する企業戦略

10月29日(火) 10:40〜12:00 タワーホール船堀5F 大ホール

近年、デジタル革命が創薬プロセスに新たな可能性をもたらしています。本セッション「デジタル革命と創薬:進化する企業戦略」では、製薬およびIT業界において最先端をリードする専門家をお招きし、最新の技術とその実用化について講演いただきます。具体的な事例を通じて、AIやデジタル技術を用いた創薬プロセスの効率化や新薬開発の可能性について深掘りし、大会長を交えた総合討論により異なる視点からの洞察を共有することで、デジタル革命と創薬の未来を展望します。このセッションを通じて、参加者の皆様にデジタル革命の波がもたらす新たな機会と挑戦について考える場を提供いたします。

座長

夏目 やよい(医薬基盤・健康・栄養研究所)

演者

PL01-01

角田 浩行
(中外製薬株式会社)

「中外製薬の創薬プロセスにおけるAIの活用と今後の展望」

エビデンスレベルの高い創薬の標的分子の数が少なくなり、創薬の難易度が上昇する中で、医薬品開発の成功確率を如何に高めるかが製薬会社における大きな課題となっている。また、機械学習やディープラーニング等のAI技術が大きく発展し、データ解析の処理速度が大幅に向上するなど、創薬分野における外部環境は大きく変化している。これらのデジタルやITの先端技術の活用は、創薬プロセスの一部を大幅に短縮すると同時に、医薬品開発の成功確率を大きく改善することが期待されている。当社では、AI技術を積極的に活用して医薬品候補分子の探索、画像解析による薬効・安全性の評価、自然言語処理を用いた論文検索や標的分子探索、ロボティクスを活用した実験自動化の開発などの創薬プロセスの変革を推進している。具体的には、抗体医薬品の臨床開発分子選定に向けた最適化において、機械学習を用いた独自のアルゴリズム(MALEXA®)を開発し、創薬プロジェクトに適用して成果を挙げてきた。本セッションでは、MALEXA®の技術開発を中心に、生成AIや他社と協働して開発したAI活用事例、社内のデジタル人財育成および当社の考える現在の課題や今後の展望について紹介する。

PL01-02

井﨑 武士
(NVIDIA Japan)

「NVIDIAの描くライフサイエンスの未来:産業を変革する生成AI技術の活用」

2010年代から始まったディープラーニングAIの発展は留まるところを知らず、さらに直近ではChatGTPをはじめとする大規模言語モデルとそれに基づく生成AIが大きく進展し、我々の身近な存在として普及が始まっています。そのような社会全体の流れの中で創薬・ライフサイエンスの領域でも生成AIを含む大規模で本格的なAI活用が現実のものとして普及し、初期の実績も上がりつつあります。本講演では、まずNVIDIAの全体的なAIへの取り組みを紹介し、ライフサイエンスにおける具体的な事例をお話します。特に欧米のテックバイオと呼ばれるAI主導型の創薬スタートアップ企業や一部のメガファーマはすでに多様なAIを当たり前のツールとして日々のルーティーン業務に組み込んでいます。そのために独自の大規模基盤モデルを学習・構築し、「ラボ・イン・ループ」型でAIによる予測や生成とハイスループットのシミュレーションやウェット実験結果を組み合わせて、そしてそれらの実験結果データを継続的に学習しAIを高めていくことで高効率な研究開発を展開しています。こうした先進的なAI創薬の実現のためには大規模計算基盤として数十台から百台規模のGPUサーバーを導入・活用するケースが増えていますが、AIプラットフォーマーとしての立場から、これらの事例も取り上げつつ、日本における本格的な生成AI時代のAI創薬実現に向けた課題を考えたいと思います。

IL01 招待講演 

AIが拓く健康科学の未来(1):アカデミアの最新動向

10月29日(火) 14:00〜15:30 タワーホール船堀5F 大ホール

本セッションでは、アカデミアにおいて健康科学分野の研究を推進している専門家をお招きし、現在どのような問題意識があるのか、どのような研究がされているのか、そしてAI技術が健康科学分野にどのように影響を与えうるのかについて、将来展望も含めて講演いただきます。創薬研究と健康科学研究、人の健康を実現することを目的としたこれらの研究領域において、多様性と共通性について新たな視座を得る機会を提供致します。

座長

荒木 通啓(医薬基盤・健康・栄養研究所)

演者

IL01-01

小野 玲
(医薬基盤・健康・栄養研究所)

「身体活動研究の現状とデータサイエンスとの融合への期待」

高い身体活動を維持すること、長時間の座位行動を減らすことは、生活習慣病や心疾患、脳血管疾患、一部のがんの発症予防に効果があることが、疫学研究を中心に分かってきている。厚労省は健康日本21の改定に合わせて、身体活動に関する指針を作成し、2024年1月に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公表した。近年の身体活動研究は、大きく2つに分かれている。1つ目は、測定デバイスが質問紙から、腰装着の加速度計(歩数計)、腕装着の加速度計(スマートウォッチ)装着に進化したことによる、個人の身体活動(+座位行動)の精緻な分析と健康アウトカムとの関係についての研究である。もう一方は、特定健診データにおける採血・生活習慣情報、医療介護レセプトデータを統合することで、身体活動以外の生活習慣や薬剤と相互作用における疾病発症についての研究である。両研究とも情報量が多く、分析から結果の社会実装においては、データサイエンスとの融合が欠かせない。本講演では、健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023の概要について理解を深めてもらうとともに、身体活動研究とデータサイエンスが融合する上での課題と期待について議論をしたい。

IL01-02

坪山 宜代
(医薬基盤・健康・栄養研究所)

「データから考える災害時の健康・栄養支援と 宇宙への展開」

災害時は、ガスや電気などのライフラインが限られている。また、被災地での生活は集団生活であり、ストレスも多く蓄積する。一方、宇宙での生活もライフラインが限られている。また、長期間、閉鎖空間で生活することから、ストレスも非常に大きい。このように、環境が似ている災害時と宇宙では、食事にも沢山の共通点があることが分かった。日本災害食学会が認証している「日本災害食」とJAXAが認証している「宇宙日本食」の認証基準を比較検討したところ、常温で保存できること、衛生管理が十分に行われていること、強靭な包装容器であること、簡単にたべられること等に共通点が認められた[1]。 これらのことから、災害時等の特殊環境の食・栄養に関するエビデンスやノウハウは、宇宙環境における食環境整備に有用であると考えられている。また、それを実現するための宇宙で食・栄養支援を実施する専門職の育成が進められており、人材育成にも災害栄養の知見が求められている。 2040年代に月面滞在者1000人を目指して、現在、様々な取り組みが進められており、それらは災害栄養の知見が活かされている。最新の情報をご紹介したい。 
[1 ]Tsuboyama-Kasaoka N, Hamanaka K, Kikuchi Y, Nakazawa T. Similarities between Disaster Food and Space Food. J Nutr Sci Vitaminol. 2022;68(5):460-469.

IL01-03

清水 誠
(お茶の水女子大学)

「機能性食品成分と健康長寿」

超高齢社会である我が国は、健康長寿の実現のため、生活習慣病の予防や身体機能の改善が喫緊の課題である。肥満を含む生活習慣病は食事や運動など生活習慣に起因する疾患であるため、エネルギー代謝の改善が重要である。エネルギー代謝や身体機能の改善を目指す取り組みの一環として、機能性食品成分が注目されている。本発表では我々の研究成果を中心に機能性食品成分について紹介する。β-コングリシニンは大豆たんぱく質の一つであり、脂質代謝改善など多様な生理機能を有することが知られている。我々は肝臓の網羅的な遺伝子発現解析や動物実験を通じて、β-コングリシニンが抗肥満ホルモンFGF21の発現を強力に増加させること、β-コングリシニンの抗肥満効果の多くはFGF21を介することを見出した。近年の研究で、宿主のエネルギー代謝における腸内細菌叢の重要性が多く報告されている。我々は、多価不飽和脂肪酸γリノレン酸の腸内細菌代謝産物(γHYD、γKetoD)が脂質代謝を制御する核内脂肪酸受容体PPARδを強力に活性化することを見出した。また、ヒト小腸オルガノイドを用いた実験から、これらの代謝産物がヒト小腸の脂質代謝を改善する可能性を報告した。このほか、食品成分ライブラリーを用いた探索型食品研究や、AIへの可能性や期待についても議論したい。

IL02 招待講演 

AIが拓く健康科学の未来(2):企業の最新動向

10月30日(水) 10:00〜11:30 タワーホール船堀5F 大ホール

本セッションでは、ライフサイエンス企業において健康科学分野の研究を推進している専門家をお招きし、実際の企業での事例を交えながら、AI技術が健康科学分野にどのように影響を与えているか、これからAIが拓くであろう今後の展望について、といった幅広い視野から講演いただきます。創薬研究と健康科学研究、人の健康を実現することを目的としたこれらの研究領域において、多様性と共通性について新たな視座を得る機会を提供致します。

座長

坪山(笠岡) 宜代(医薬基盤・健康・栄養研究所)

演者

IL02-01

栢木 宏之
(丸善製薬株式会社)

「3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid(HMPA)を産生する腸内細菌と宿主の相互作用に関する研究」

ポリフェノールは植物由来の機能性成分としてよく知られており、生体での有効性に関する報告も多い。一方で、その生体利用性の低さや作用機序に未解明な部分が多いことはポリフェノールパラドックスと呼ばれている。興味深いことにコーヒーやリンゴなどのポリフェノールが豊富な食品や、γ-オリザノールやクルクミンといった有効性が知られているポリフェノールの腸内細菌代謝物から、共通してC6-C3化合物である3-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid(HMPA)が検出される。我々はポリフェノールの腸内細菌代謝物であるHMPAは、ポリフェノールが機能発現するための一つの形であるとの仮説を立て、有効性や作用機序、発酵生産に関する研究を進めてきた。本講演ではHMPAのヒトに対する有効性の報告と腸内細菌がポリフェノールを代謝する意義について考察する。併せて、我々が取り組んでいるバイオインフォマティクスの活用と期待についても紹介する。従来の考えでは栄養や機能性成分を摂ることが「食」であったが、近年の「食」に対する考え方はヒト-食品-腸内細菌の3要素から成る複雑な関係性の理解に変わりつつある。それぞれの要素が膨大なデータを持ち、複雑に絡み合う中、これらを紐解くためにバイオインフォマティクスの活用が重要になると考えている。

IL02-02

中野 礼彪
(雪印メグミルク株式会社)

「乳製品の摂取量と骨関連指標との関係性」

乳製品は骨の健康に関連する栄養素を多く含むが、日本人の乳製品摂取量は西洋諸国に比べて低く、その骨関連指標の関連について未だ不明な点が多い。本研究では、2015年に青森県の岩木健康増進プロジェクト健診参加者1063名を対象に、乳製品摂取と骨関連指標の関係についての横断研究を行った。簡易型自記式食事歴法質問票から算出した乳製品摂取量、血中骨代謝マーカー濃度、音響的骨評価値(OSI)をそれぞれ用い、習慣的な乳製品の摂取有無による比較と、年齢と性別で調整した多重線形回帰モデルによりこれらの関連を調べた。その結果、OSI Z scoreとプロコラーゲン I 型 N 末端ペプチド(P1NP)、低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)、P1NP/骨アルカリホスファターゼ(P1NP/BAP)の各指標に関して、乳製品の摂取有無による差異が認められた。また、因子調整済みの多重線形回帰モデルにおいて、低脂肪乳製品は酒石酸耐性酸性ホスファターゼ5b(TRACP-5b)とOSI T score、OSI Z score、普通・高脂肪乳製品は副甲状腺ホルモン濃度(PTH)とucOC、P1NP/BAP、全乳製品はPTHとそれぞれ相関があった。閉経後女性ならびに骨粗鬆症の治療状況を考慮した感度分析において、閉経後女性では、乳製品の摂取とTRACP-5b、OSI、ucOC、P1NP/BAP等で相関があった。一方、骨粗鬆症の治療状況では、P1NPとP1NP/BAP、OSI T score等で有意差があった。以上の結果より、乳製品の摂取は閉経後女性を主体とする日本人の骨関連指標と関連する可能性が示唆された。

IL02-03

宮崎 匡史
(花王株式会社)

「ビッグデータ解析による内臓脂肪の医学的意義の解明」

メタボリックシンドローム(メタボ)とロコモティブシンドローム(ロコモ)は、生活習慣に起因し、健康状態維持を困難にさせる二大ルートである。これまで花王株式会社は、内臓脂肪を簡易に測定できる医療機器を開発することで、このような生活習慣病の予防に対する社会貢献をしてきた。しかしながら、これら二因子に対する内臓脂肪の影響に関する研究は不十分であった。そこで、本機器を弘前大学COI-NEXT「岩木健康増進プロジェクト(岩木健診)」に導入し、経年ビックデータを構築してきた(10年間、約2000-3000項目、延べ人数:約10000名)。メタボ発症に関しては、内臓脂肪が主要因であり、内臓脂肪の蓄積に寄与する食生活、運動習慣、睡眠習慣などの生活習慣をビッグデータ解析により明らかにしてきた。さらに、スマートフォンで簡便に内臓脂肪を推定できるアプリの開発・導入も実施してきた。一方、ロコモ発症に関しては、筋骨格系障害が主要因と考えられており、メタボとの直接的な関係性を示唆する研究は存在しない。そこで、メタボとロコモの関係性を紐解くべく、2015~2019年の岩木健診データを用いて内臓脂肪面積とロコモ度の横断解析を行った。その結果、内臓脂肪面積は、年齢と相加的に初期段階のロコモ(ロコモ度1)と関連することを見出した。さらに、ロコモ関連項目同士の因果関係をグラフ構造で表現するベイジアンネットワークを用いた解析により、ロコモ発症パターンの一つに内臓脂肪の蓄積を主要因とした項目間のパス(経路)があることを見出した。本講演では、花王の内臓脂肪研究のレビューと、ロコモとの関連解析により得られた最新の研究成果を報告する。

IL02-04

井田 正幸
(サントリーウエルネス株式会社)

「サントリーウエルネスにおける個別化栄養研究の取り組み」

サントリーウエルネス株式会社は、サントリーグループにおける健康事業を担う会社としてスタートし、お客様のウエルネス実現をサポートするための商品・サービスを提供している。超高齢化社会を迎えた日本において、これまでは特に、加齢による体の変化に着目した老化研究をもとに、お客様のさまざまなお悩みに合わせたマス向けの健康食品を開発してきた。近年、個人の生活習慣や腸内細菌などに応じて、一人ひとりに適した食事の提案を行う「個別化栄養」が注目されており、サントリーウエルネスにおいても、一人ひとりの状態に合わせた商品・サービスの開発を進めている。個別化栄養研究では、食後の血糖値変動に着目した研究が進展している。英国やイスラエルの研究グループは、同じ食事を摂取しても食後血糖値の推移には個人差があること、様々な栄養組成に対する個々人の食後血糖反応は、腸内細菌や生活習慣、健康状態から予測可能であることを報告している。そこで、弊社では日本人を対象とした個別化商品・サービス開発を目指し、日本人のデータをもとにした食後血糖予測アルゴリズムの作成を試みている。本セミナーでは、一人ひとりのお客様に合わせた商品・サービス開発を目指した弊社の個別化栄養研究の取り組みを紹介したい。

IL03 招待講演 

みんなのエンジニアリング

10月31日(木) 10:00〜11:30 タワーホール船堀5F 大ホール

本大会テーマ「多様性を生み出すデータベースとモデリング研究」に則して、モデリング研究において近年特にその存在感を増しているpython、オープンソースでありながらその高度な機能と柔軟性から様々な規模・用途で利用されているデータベースPostgreSQLの専門家をお招きします。更に、本大会のテーマである「多様性」に関連して情報工学と考古学の複合領域の専門家をお招きし、一見馴染みのない分野でも共通の技術や視点といった「共通性」を通して理解し合うことができる、好奇心をくすぐられる面白さを体験していただきます。多様な視点からのアプローチが新たな発見と連携の可能性を生む場となることを期待しています。

座長

夏目 やよい(医薬基盤・健康・栄養研究所)

演者

IL03-01

柴田 淳
(株式会社マインドインフォ)

「研究開発とpython」

近代科学の「研究」は目視できる現象の観察に始まり,道具を使って視野を広げることで科学の対象を拡大してゆきました。やがて数学が科学の目・手となり,「工学」が花咲きます。そして現代では,人間の認知や思考を含めたあらゆる現象が,コンピュータ上のシミュレーションモデルとして「計算」されています。この発表では,「プログラミングは研究開発のために生み出された」という仮説を起点として話を進めます。そして,Pythonがなぜ使われるようになったのか,どのように使われてきたのかを概観してゆきます。プログラミングの目となるのは「データ構造」です。手となるのは「アルゴリズム」です。プログラミング的手法の発展は,この二つの手法の進化として見ることができます。データ構造とアルゴリズムを通して見ると,研究開発とPythonを結ぶ「モデル」を見いだすことができます。モデルの行く先を見つめることで,Pythonが研究開発に今後どのように使われて行くのかについて,簡単な近未来予測を試みたいと思います。

IL03-02

稲葉 香理
(株式会社 SRA OSS)

「オープンソースデータベースPostgreSQLの過去・現在・未来」

RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)は、1970年代に誕生し50年以上がたった今でも、実務上、最も選択されているデータ管理の手法でしょう。近年は、クラウドサービスでもセルフ/フルマネージドのみならず、拡張機能を備えたRDBMSベースのデータベースサービスが登場するなど、新しい RDBMSサービスも出現しています。こういった中、利用を伸ばしているのがオープンソースのデータベースです。日本では、PostgreSQLやMySQLが良く知られています。研究者の皆さんが収集するデータを一元管理の元、効率よくデータを引き出すにはRDBMSの力が必要になることでしょう。講演者は、PostgreSQLの黎明期からエンジニアとして、普及拡大時にはマーケターとして、現在は経営者としてその発展に関わってきました。改めて、皆様に PostgreSQL をご紹介できる機会をいただけたことを大変光栄に思います。

IL03-03

金谷 一朗
(長崎大学)

「コンピュータ・サイエンスが明かす古代エジプトの謎」

本講演では,画像処理技術やAIを駆使した最先端ICT技術によって,古代エジプト人たちの生活からピラミッド建築に到る謎を少しずつ明らかにしていく過程を説明します.砂漠に残る4500年前の巨大建築を,日本をはじめアメリカ,イギリス,チェコ,ポーランドなどの国際調査隊がどのように調査し,どのように現状を記録し,過去を復元しているのか,TV番組「世界ふしぎ発見!」で活用された技術も含めて紹介します.ドローンによるピラミッド空撮からの3次元形状復元や,AIによる画像解析など最新の成果を共有します.

IL04 招待講演 

LLMの最先端トピックス

10月31日(木) 14:00〜15:30 タワーホール船堀5F 大ホール

現在あらゆる分野でゲームチェンジャーとなっているLLM(大規模言語モデル)に関して、基礎研究・応用研究と多角的な最先端トピックスを紹介します。アカデミア、企業といった各方面から最先端を走るトップランナーをお招きし、LLMがどのように進化し、世界にどのような変化をもたらすのか、LLMの「いま」について最新情報を講演いただきます。LLMの現状と将来展望を深く掘り下げ、多様な視点からその影響を考察します。研究者や業界関係者にとって、LLMの最前線を知る絶好の機会となるでしょう。

座長

小寺 正明(株式会社Preferred Networks)

演者

IL04-01

Shweta Maniar
(Google Cloud)

「生命科学の発見を促進するAI:研究から商業化までを加速する」

AI is becoming an indispensable tool for life sciences research. We survey the landscape of AI applications, including discovery, interpretation of data and getting the right medicines to the right patients right now. Shweta will outline how AI can shorten research timelines, reduce costs, and uncover insights otherwise unattainable with traditional methods using AI. Together, we envision a future where AI drives groundbreaking discoveries across life sciences.

IL04-02

金谷 和充
(中外製薬株式会社)

「中外製薬における生成AI活用戦略」

現在、創薬研究は費用と時間が非常にかかり、近年その成功確率も低下している。このような背景の中で、生成AIを含むAI技術の先進的な活用により、創薬研究および開発プロセスの効率化と革新が求められている。そのため、生成AIの活用がどのように創薬研究の効率化と革新に寄与するかを明らかにし、今後の医薬品開発における新たな可能性を探ることを目的に活動を行っている。具体的には、生成AIの活用により、標的分子や化合物候補の探索、臨床試験計画の精緻化、承認申請等の文書自動生成を通じて、研究開発プロセスの大幅な短縮に寄与することを目指している。また、生成AIを活用した社内文書の問い合わせ対応、ノウハウの共有、インサイトの抽出を実現することで、全社の生産性向上と新たな価値創出を図っている。さらに、生成AIのリスク管理にも注力しており、適切なガイドラインとガバナンス体制を構築することで、安全かつ効果的な生成AIの活用を推進している。これらの取り組みにより、中外製薬は革新的な医薬品およびサービスの早期提供を通じて、患者や医療関係者への提供価値を最大化することを目指している。本発表では、これらの活動の具体的な事例について紹介し、生成AIがどのように創薬プロセスに革新をもたらすかを詳述する予定である。

IL04-03

岡崎 直観
(東京科学大学)

「基盤モデルの最先端と科学研究での活用」

自然言語処理は、人間の言葉を理解し生成できるコンピュータの実現を目指す研究分野である。2022年11月にOpenAIが公開したChatGPTは、様々な質問に対して驚くほど専門的で自然な回答をし、世界的なブームを巻き起こした。その後、大規模言語モデルの研究開発が活発に進められ、OpenAIのGPT-4やGPT-4V、GoogleのBardやGemini、AnthropicのClaude 3などが発表されている。また、国内外の多くの企業や研究機関が日本語に堪能な大規模言語モデルを開発している。さらに、大規模言語モデルと画像、音声、映像など他のモダリティを統合したマルチモーダル基盤モデルの開発も盛んに行われている。本講演では、LLMの基本的な仕組みや開発(事前学習、命令調整、アライメント、評価など)について解説する。また、LLMを特定の言語や分野に適応させるためのアプローチとして、継続事前学習を説明し、その取り組みの一例として、東京科学大学(旧:東京工業大学)と産業技術総合研究所で開発されている大規模言語モデルSwallowを紹介する。最後に、大規模言語モデルの生命・医学分野への応用の最新動向として、MedpromptやMed-Geminiなどを紹介し、医療分野におけるLLMの最近の進展を紹介する。

IL04-04

岡野原 大輔
(株式会社Preferred Networks)

「大規模言語モデルがもたらす医療と創薬の革新」

近年、大規模言語モデル(LLM)は目覚ましい進歩を遂げ、社会の様々な分野への導入が加速している。膨大なデータを用いて学習されたLLMは、これまでにない常識についての理解能力と高度な推論能力を有している。 LLMの性能は、学習データやモデルサイズ、投入計算量の増加に加え、学習データの質の改善や指示学習の改良などにより日々向上している。こうした進歩により、膨大かつ高度な知識を必要とする医療や創薬分野においてもLLMの活用機会が急速に拡大している。 例えば、2024年に入って日本国家医師試験で合格点を超える成績を達成できるようなLLMが登場し、医療に必要な基本的な質問応答ができるレベルに達している。また、生命科学や化学などの分野においても、LLMは専門家に匹敵する知識を備えるようになっている。これらのシステムを活用することで、医療や創薬の研究開発の加速や、臨床現場での支援ツールとしての活用が期待されている。 しかし、LLMの医療・創薬分野での応用には課題も存在する。例えば、データの機密性や倫理的配慮、モデルの判断根拠の透明性確保、誤った情報や偏見の排除などが挙げられる。また、法的・規制面での整備も必要となる。 本講演では、LLMの最新の進展について概説するとともに、医療や創薬の各分野でどのように活用されうるかを具体例を交えて解説する。さらに、今後解決しなければならない課題についても議論し、LLMの責任ある利用と将来の展望について考察する。